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コスモス新聞

コスモス新聞 病院からのお知らせ、ちょっとしたエピソード、医療に関するお話、患者様よりお寄せ頂いたメッセージ、思い出の映画など情報満載です。

コスモス新聞第173号

近代の薬

考えてみますと、各医療分野でよく使われる薬が出てきてから、40~50年しか経っていません。実に不思議な機がします。それまでは、どんな風に病気を治していたのでしょうか?
古くは、宗教やまじない、さらに草や木、根、皮の類で、経験的に行っていました。近代の薬の登場により、今までは不治の病といわれていた病気も簡単に治り、その恩恵を受けた方はたくさんいます。
しかしながら、近代の薬の歴史は、薬害の歴史でもあります。
副作用のない薬はありません。どんな薬でも大なり小なり副作用がつきものなのです。死に至ってしまう副作用もあり、副作用対策は我々医療従事者の大きな課題となっています。過去の薬害を振り返ってみると、被害が起きてからの対応を誤ったために被害が広まったものがあります。薬はそれだけでは、ただ単に化学物質であり、そこに情報(1日に何回飲んで、どんな風に効いて、副作用はどんなものがあるかなど)が付け加わって初めて医薬品といえるのです。
副作用が認められてからの対応は、的確で迅速でなければならないことは言うまでもないことです。

ペニシリン・ショック
いうまでもなく、ペニシリンは、抗生物質のなかった時代から考えると画期的な薬で、感染症に対する効果があまりにも劇的で、それまでは、死に至ってしまっていた多くの病気を魔法のように治してしまいました。どんな病気でも治るという、薬の神話を作り上げてしまいました。しかしそんな魔法の薬も過信してはいけないという事件が起こりました。昭和31年5月15日、東大法学部教授の尾高朝雄氏が虫歯の治療中にペニシリン注射によるショックで意識不明となり、救急病院に入院後死亡してしまいました。原因は、アナフィラキシーショックといわれるもので、重症なショックを伴うアレルギー反応のためです。それまでにもペニシリン・ショックはあったと思われるのですけれど、名士が倒れて初めて社会問題となったのです。

サリドマイド
サリドマイドは旧西ドイツのグリュネンタール化学会社が開発した睡眠剤で、もともとはてんかん患者の抗痙攣剤として開発されていたものです。これを服用した妊婦より手足の奇形(アザラシ症)をもった子供が産まれるという悲劇が起こりました。時に昭和30年代半ばのことです。当時、この薬の売り文句としては、早く深い眠りにつけるうえに、副作用が少ないため大量使用しても問題なく、睡眠薬の服用による自殺も防止できるといったものでした。その時代の一般的な睡眠薬となり、病院や精神科施設などで広く使われるようになりました。特に、妊娠中のつわりの苦痛を除くのにも用いられました。
この事件は、西ドイツ国内だけにとどまらず、日本を含む各国に広がりを見せました。しかし、昭和36年11月、西ドイツの小児科医師会会議でハンブルグ大学のレンツ博士がサリドマイドと四肢奇形の関係の研究報告をしました。それ以来、サリドマイド含有の医薬品は全面的に回収となりました。(ただ、アメリカだけは許可申請中の段階で、治験段階に発生した数名の犠牲者だけで食い止められました。これは、FDA(食品医薬品局)の審査官F.C.ケルシー女史がサリドマイドの毒性・副作用に疑問を抱き、継続審査していたためで、彼女は資料の不備を指摘し、医薬品として承認しなかったことに対して、ケネディー大統領から特別金賞が授与されています)。
現在では、サリドマイドは光学異性体(まったく同じ原子構造のものが、左右の手のように重ね合わせることができないもの)が存在し、l体に効果があり、d体に副作用があることが分かっています。つまり、l体だけのサリドマイドであれば、そのような悲劇が起こらなかったということです。開発当時、それらは分離することができなかったのですが、現在では分離できることが分かっています。(その2つを分離することは可能なのですが、l体は徐々に体内でd体へと変化することが後にわかっています。ですからl体だけを服用しても胎児への影響は避けられません。しかし、もう再び医薬品として認められることはないでしょう。こうやって見てきますと、薬の歴史がある分だけ、その副作用の歴史もあるということが分かります。
そして、一体、それらの事件で我々医療従事者は何を学んだのでしょうか?
何度も同じ様な事件が、繰り返し起きているように思います。ということは、それらの事件から何も学んでいないために薬害が繰り返されるのではないのでしょうか? 日本国内でいいますと厚生省が全てではないと考えます。当然のことながら、厚生省がしっかりしてもらわなければいけませんが、しかし、厚生省がいいといったら全てがいいかというと、それは疑問です。そのことは、薬害エイズ事件が物語っています。それぞれの病院・診療所が、それぞれの立場で厳しく薬を見ることが大事です。厚生省がOKをだした薬でも、各診療機関がそれぞれの判断をし、使うのをやめるということがあってもいいと思っています。また、各診療機関独自の医薬品の採用・中止に関する会議をどこでも行っていますが、仕事に従事する医療関係者ひとりひとりが厳しい目を持つべきでしょう。そうじゃないと、薬害の教訓が活かされないですから。

危険な自己判断での薬の服用
慢性疾患患者で、きちんと薬を服用している患者は、1%にしかすぎないという報告があります。実際、入院中は薬剤師や看護師が確認しているからちゃんと服用している人でも、退院して自宅に帰った後は薬をきちんと飲んでいない人はかなり多いと思います。外来患者さんにも、「この薬はあまり飲んでいなくて余っているからいらない」と言われる方がいます。
いろいろなことを考えても、処方された薬を飲まずにそのままゴミ箱に捨てているなんてことは、もったいないことだと思いませんか。自分の飲んでいない薬は、きちんと診察の時に医師に告げてください。医師に言いにくい患者さんは薬を渡されるときに薬剤師にご相談ください。

薬を適当に飲むということ
慢性疾患の患者さんで6割以上の方が薬を飲み残しているということが、日本薬剤師会の調査でわかりました。ちょっと驚くような数字ですね。消化器や心臓などの慢性疾患の投薬を受けに訪れた患者計617人を対象に、飲み残しの有無をアンケートしたそうです。 飲み残した患者さんにその理由を聞いてみたところ、「時々飲み忘れる」「自分で調節しているため」といった回答が多かったとのことです。 医師から処方された薬を適当に飲むとどうなるでしょうか。その薬で慢性的な疾患をコントロールしている場合、具合の悪いことになってしまいます。例えば睡眠導入剤を服用してよく眠ることができている方は、飲み忘れれば寝られませんし、多く飲みすぎると若干、眠りすぎてしまうかも知れません。
(現在、睡眠導入剤の主流であるベンゾジアセピン系の薬は比較的安全性が高い薬です)
飲み忘れは、その薬の効果がでてこないのはもちろんですが、主治医はちゃんと飲んでいるものと思ってあなたのことを診るはずです。きちんと飲んでいれば効果があるものをきちんと飲まないと、主治医は投与している薬が効いていないと判断し、薬の量を増やしたり、別の作用の強い薬に変えてしまうかも知れません。それで、これはいけないと思い、いままで出されていた薬と新しく出された薬を一度に飲んでしまうとどうなるか・・・わかりますよね。当然、一度に薬を多く飲むことになり、危険なことになります。
そんな意味でも、ちゃんと薬を飲むべきです。また、飲み忘れや多く飲みすぎた場合も、ご自分からは言いにくいかもしれませんが(言いにくい状況というのもよく分かります;患者さんの多くは、医師の前ではいい患者を演じなければと思っているものですから)、診察の際に主治医にその旨、お話された方がいいと思います。飲んでもいないのに、「ちゃんと飲んでいる」と主治医に話すのが問題です。
以前、老人医療が無料だった時期には薬を捨てる患者さんがいたと聞いたことがあります。
血糖を下げる飲み薬を飲んでいて、調子よかった糖尿病の患者さんが、治療前はおしっこが泡立っていたのが、それがなくなったというので、糖尿がよくなったと自分で勝手に思いこみ、薬を飲むのを止めちゃったところ、糖尿病が悪化してしまったというケースを知っています。
自分で勝手に、というのはあまりいいことがないようです。

人間の体内時計は1日25時間

人間の体内時計のサイクルを研究した人がいます。ドイツのユルゲン・アショフという人です。彼は外の世界から遮断された部屋に26人の人を1ヶ月近く生活させて、さまざまなデータを取り、その結果、人間のサイクルが、24時間ではなく25時間であることをつきとめました。なぜこの1時間のずれがあるのか不思議です。地球時間のサイクルは24時間ですから、我々は、この差を1日のうちどこかで調整しながら生活していることになります。
ヒトの場合、体内時計はちょうど目のすぐ裏側に位置している視床下部の視交叉上核とよばれる部分にあり、神経ネットワークによって脳の中心部にある松果体という豆粒大の器官と結ばれています。網膜から光情報を受けて毎日24時間に修正しながら、夜になると松果体からメラトニンを分泌させて全身に夜であることを知らせ、一日周期のバイオリズムを司っています。
このメラトニンという物質を薬として考えると、睡眠リズム障害や時差ボケの解消に有用だと言われています。現在、いろいろな研究がされているようです。また、ちょっと前にメラトニンがアメリカで騒がれたのは、「若返り薬」と考えられたからです。免疫システムを回復させることで老化を遅らせる作用があるのではというのがその根拠らしいのですが、真偽の程は定かでありません。
アメリカでは医薬品ではなく栄養補助食品として、健康食品店やスーパーマーケットなどで買うことができ、数百万人以上が常用しています。日本では栄養補助食品としても医薬品としても販売されていませんが、週刊誌などで紹介されて、旅行者らが大量に持ち帰るなどかなりの量が流入していると考えられます。最近ではインターネット上で購入もできるようです。
しかし、メラトニンを長期に服用した時の、人体に与える影響についてはまだ分かっていない状態で、研究者の間では副作用を懸念する声が高まってきています。   
平成20年1月号へつづく