香川県高松市での整形外科・内科・健康診断・予防接種は吉峰病院へ。

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エッセイ

エッセイ

ふきのとう「有終(2)」

西日が差すカンファレンスルームの古びたソファに向かい合い、僕は歯切れ悪く喋っていた。
ラグビー少年の中山とそのご両親に、つらい宣告をしているのだ。
入院2日目に局所麻酔をかけBiopsy(腫瘍の一部を切り取り、それを病理検査する事)から始まり、MRI、血管造影と検査を続けてきたが、結果はやはり骨肉腫と確定したからだ。
「どうしてこんなになるんですか?」
答えられなかった。
原因不明なのだ。遺伝的に持って生まれてきたのかもしれないし、突然の変異で起こったのかもしれない。
ガンの治療をしていた患者さんに発症し2年で死亡した例や、子宮ガンの患者さんの場合は発症から2ヶ月で死亡に至っている。どちらも放射線療法の後に発症している。
骨肉腫は日本国内において、1964~1987年の24年間で2788例あったと報告されている。ほぼ一年で100例以上の人がこの病気にかかるという事だ。
特に10代の男子に多く、大きな骨に発症する率が高く、予後は悪い。
そして彼のように腫れてからでは遅い。
骨肉腫は外科では把握できない。
まれに捻挫や骨折で整形外科に行き、早期に発見される事がある。
この場合の生存率は高い。
安静にしていれば治るものでもない。
虫歯と同じで一度かかったら、元に戻る事はなく、着実にその体を蝕んでいく。
ただ言える事は、彼の場合は早期に切断するのが一番よい治療法だという事。
彼は拒否しているのだ。
「ラグビーは走るスポーツです。片足では走れない。」断固たる拒否だった。
何より走れない事を恐れているのだ。
だが命との秤には何物もかけれない。
放置するなら彼の将来はない。
抗ガン剤の大量投与をして、ガンを出来るだけ小さく封じ込めなければならない。
その後に切断となるだろう。
反抗できない位に小さくしなくては切断する事は出来ない。
何故なら血液を通して肺に転移する可能性が高いからだ。
だが大量投与は副作用が問題になってくる。
悪心、嘔吐の他に脱毛も始まる。食欲不振、頭痛も起きる。
それらの副作用を押さえる薬を3時間おきに位に投与し、尿検査も度々すること等を話した。
そうした治療しながら、彼の同意を得るまで説得をしていくつもりだ。
「では今週中に抗ガン剤の投与を始めましょう。長期の入院になりますから、そのつもりでいて下さい。」
がっくり肩を落とした中山を支えるように、ご両親が両脇に立って部屋を出て行った。
病棟を回診していると、小さな手が白衣の裾を引っ張っている。「何だ、裕太か。」
「先生、僕ね、昨日の晩に熱が出ちゃったの。でもすぐに退院出来るよね。」
まだ熱が残っているらしく、うるんだ瞳をしている。
「そうか。じゃっ、診察してみようね。」
裕太は生まれてから、ずっと病院と自宅を行ったり来たりしている。"骨形成不全症"骨が異常にもろいのだ。
少しの事ですぐに骨折する。
裕太が来ると皆が、かわいがるから病院は嫌いじゃないけど、治療は嫌いなのだ。幸い、今回は足の軽い骨折だったから、比較的早くの退院予定だ。
内緒の話だけど、家に残して来たメカゴジラのミニチュアが気になるのだ。
それなら病院へ持ってくればいいのだが、裕太は早く退院したいから、持って来るのをいやがったんですと母親が笑って言っていた。「どれ、裕太、口を大きく開けてごらん。この前みたいに病院探検して走ったんじゃないか。それとも婦長さんのすきをみて、表に出たのかな?」
「ちがうよ。ちょっとだけ屋上に行ってみただけだよ。」
「屋上?何しに。」
「雪の結晶が見たかったから。」
どうやら熱は科学の神秘を探りに行った結果であるらしい。
「喉が腫れているぞ。当分退院は無理だな。」
裕太の瞳が涙でかすんだ。
「うそだよ。でもおとなしくベッドで寝てる事。守らないと本当に退院できないからね。」
素直にうなずいて布団にもぐりこんだが、油断は出来ない。
看護婦にしっかり見張るように目で合図する。
このままじっとしていれば、明後日には退院できそうだ。