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エッセイ

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ふきのとう「有終(6)」

そんな最中、朗報が入った。
「先生、Okが出ました。僕たちの結婚が決まりました。」
電話の向こうで喜んでいる姿が目に浮かぶ。
「彼女の両親が折れてくれたのです。僕を信頼して娘をくれると言ってくれました。先生の助言がよかったんです。医者の折り紙つきなら安心だって。」
「よかったな。本当に。」
「ありがとうございます。この秋に式を挙げます。先生も是非来て下さい。」
「わかった。必ず出席するよ。」
電話を切った後も、彼の喜びの余韻が残り、心が暖かかった。
中山の夏はリハビリ訓練で明け暮れた。
義足装着後の歩行訓練がはかどらず、あせっているのだ。
うまくいくように彼を導いていくのは、患者と医者とリハビリ訓練士の信頼関係が大きくものをいう。
アブラゼミの鳴き声が耳ざわりな昼過ぎ、訓練室をのぞくと平行棒に寄りかかっている中山がいた。
汗が首筋をつたってシャツに吸い込まれている。
「中山、頑張ってるな。」
「はい。でも思うように動いてくれなくて。」
「力にまかせて、無理やり動かそうとするな。ほら、もっと肩の力を抜いて。」
「先生、こんな事して何になるんだと思いませんか。」
「自分のためさ。学校行くとき歩いて行きたいとか、彼女が出来たとき、肩に手をまわしたいと思うとする。松葉杖ついてたんじゃスマートに出来ないとか、ごく利己的な問題さ。もっと自己中心的に考えて見ろよ。」
「そういう考え方をすればいいのですか。成る程ね・・・。じゃ、先生、我がまま言ってもいいですか。」
「いいよ。」
「チームが練習をしてる所が見たいのです。もう随分ラグビーしてないから。仲間にも会いたいし。」
ラグビーには"OneForAll,AllForOne"という言葉がある。「一人は皆のために、皆は一人のために」という意味だ。
彼の体の中には、チームワークという言葉がたたきこまれているのだろう。
「う~ん、よし。今度の日曜に特別に連れてってやろう。一生懸命リハビリしているご褒美だ。」
その日曜日、中山の道案内で高校のグラウンドへ出掛け、隅のベンチに座って二人でチームの練習を見ていた。
暑い午後だった。
選手達はほこりを上げて走り回り、スクラムの熱気がここまで感じられるようだった。大声でかれた声が飛び交い、したたる汗は大地にのまれていた。
「僕はチームの中でも期待のフォワードでした。誰も僕のガードは破れませんでした。鉄壁って言われてました。」
熱っぽく語る彼は、心の中で走っている自分を想像しているのだろうか。
「こんなとこに座って見学するなんて、思った事もなかった。」
「走りたいか?」
「走りたいです。」
「出来るぞ。成せば成る。必ず走れるようになるよ。」
「走るだけではだめなんです。チームのお荷物にしかなりませんから。だから、監督に手紙書いたんです。マネージャーになりたいって。僕にはこのグラウンドから離れる事なんて考えられないから。ヤカン持って、鬼のマネージャーになって、選手を叱咤激励する事にしたんです。」
泣いているような笑い顔だった。
気休めの一言なんか、跳ね飛ばす彼の気構えがうれしかった。
僕に息子がいたら、彼のように育てたいと心の底から思った。
ススキの穂がふくらみ、もみじが染まる頃、彼は退院していった。