香川県高松市での整形外科・内科・健康診断・予防接種は吉峰病院へ。

English

エッセイ

エッセイ

ふきのとう「有終(5)」

翌日、中山の手術は午前中に始まった。
大腿骨の真ん中から切断し、その切断した足から大腿骨、膝を取り去る。
次はその下の部分を今までと逆にして、残した大腿骨にくっつける。
つまり、かかとの部分が膝の役目をする事になる。
義足はそこから下に装着する。そうすれば、あたかも膝が曲がるように、かかとが曲がるから、椅子に座ったり、立ったりするのが容易だ。
切断した足の腫瘍の一部を切り取り、迅速病理を頼む。
術前抗ガン剤療法の効果の具合を確かめるためと、術後の弱った体に最も適している抗ガン剤の選択に役立てるために。
手術室から出たのは夕刻だった。
心配そうな中山のご両親が駆け寄ってきた。
「大丈夫です。手術は成功しました。安心して下さい。今晩は術後なので回復室で過ごす予定です。もう少ししたら面会できますよ。」
二人とも安心したように、肩の力が抜けた。
「後で結構ですがお話しがありますので、カンファレンスルームに来て下さい。」
この病気は術後5年間の生存率が悪い。
手術は成功したが、楽観は許されない状態なのだ。
外はすでに暗くなっていた。
蛍光灯の光でカンファレンスルームは妙に白々とみえる。
何だろうといぶかっているご両親を前に、僕は緊張していた。
「どうぞ、お楽に。」
「ありがとうございました。これでほっとしました。先生には根気よく息子を説得していただき、息子も安心しておまかせすると言っておりました。」
「実は息子さんのいない所でお話しする事があります。本人に話すかどうかは、ご夫妻で良く相談してからにして下さい。」
疑ってもいない人に、追い打ちをかけるような後ろめたさがあった。
「骨肉腫には3つのタイプがあります。硬化型、溶骨型、混合型です。ご子息の場合は混合型です。」
吃驚して言葉もなく聞いているご両親を前に、僕は事務的に話を進めた。
骨肉腫の3つのタイプの予後はどれも悪く、その中でも混合型は特にタチが悪い。それでも今は生存率が50%に上がってきているが、予後不良に変わりはなく、痛みや腫れが短期間で現れる場合は、病気の進行度も早いとされている。
怖いのは肺に転移する事で、最初の段階からこれを防ぐ治療をする。
肺に転移した場合、播種型(多発性)なので手術はまず不可能とされていること等をゆっくりと分かりやすく説明した。
「先生、息子は再発の危険が高いということですか。」
「そうです。でもそうならないように万全を尽くすつもりです。」「切ってしまえば安全と思っていました。生きるために切断したのに。あの子にとって足を切る事は一大決心でした。私にとってもそうです。まだ不足なのですか。どこまであの子に辛抱しろというのですか。何が悪かったのですか!」
悲痛な叫びだった。
黙っていた父親が妻の手をそっと引き寄せた。
行き場のない怒りは悲しみに変わり、部屋の中は静寂に包まれた。「お母さん、彼はこれからも戦わなくてはならないのです。一瞬の油断も出来ないと思って下さい。私だけの力では足りません。ご両親の協力が必要です。」
「私には言えません。再発なんて。あの子がかわいそうで。」
「私が話そう。息子は理解してくれると思う。あいつは負けず嫌いだ。決して負けない。」後は声にならなかった。
彼の苦悩が分かるだけに誰もがつらかった。
「術後の経過をみながら抗ガン剤の投与を始めるつもりです。息子さんは戦う勇気を持っていますよ。」
「先生、よろしくお願いします。あの子の力になってやって下さい。
息子は絶対の信頼を持ってますから。」
「病気に負けない気力が何より大事です。最初から駄目だと思ったら勝負は負けです。彼を信じて、病気と戦って行きましょう。」
術後3日目から抗ガン剤の投与が再び開始された。
手術のダメージは思ったほどでなく、彼の若さをつくづく実感させられた。
容体を見ながら、10週かけて投与をするつもりだ。