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エッセイ

エッセイ

ふきのとう「有終(4)」

4月下旬のある日
宮城君と僕は、掃除の行き届いた部屋でかしこまっていた。
家具は古びているが、よく磨かれていて、この家の主婦の潔癖さが伺えるようだ。もう一時間近くも話し合っているが、平行線のままだ。
これはチト手ごわいぞと、頭の中で警報機が鳴っている。
「お願いします。お嬢さんと結婚させて下さい。」
もう何度目かの頭を、更に低くして宮城君が訴えている。
両者とも泣きださんばかりだ。
奪う者、奪われる者、双方とも娘の幸せのために戦っている。
「一人娘なのです。普通の人と結婚させ、平穏な生活を送ってもらいたいのです」
母親の当然な主張だった。
「彼と結婚しても、ごく普通の生活と変わりありませんよ。」
堂々巡りの会話に僕が割り込んだ。
「他の誰よりも誠実に彼女を守ってくれるはずです。確かに下半身不随ではありますが、普通の性生活も送れます。少し工夫が必要でしょうが。子供を作る事も可能です。世間体が悪いとか、娘さんがかわいそうと言う前に、何が彼女のためになるかを、前向きに考えてみようではありませんか。」
田舎ではタブー視されがちな、性の問題をあえて口に出して言ったのは、一人娘だから、跡継ぎの事が問題なのではないのかという疑念を持ったからだ。
「子供が作れるのですか?」
「大丈夫です。保証しますよ。」ようやく糸口が見つかったようで、
僕の気持ちが緩んだ。
「それでも親戚の皆が何というか。この人の世話をしに嫁にいくのかって、言ってましたから。」
「何でも自分でやれるように訓練してます。」
僕はリハビリについて語った。
来る日も来る日も、こなさなければならない単調なリハビリの訓練の事を。
まず最初はプッシュアップだ。
下半身がマヒしているため、お尻の筋肉が落ち、蓐瘡ができやすくなる。それを防ぐために腕で下半身を持ち上げる訓練をする。
冬でも汗が出るほど、つらい訓練だ。
次にタッピング。膀胱の訓練だ。自己導尿、排尿訓練の事だ。
もちろん車椅子を自分の手足のように動かすための訓練もある。
プッシュアップは車椅子を動かすのに、必要な腕の筋肉もつけてくれる。
バーベルなどの器具を使ったトレーニングもある。
ともすれば、投げやりになってしまう気持ちを引き立たせ、自立できるまでに要する忍耐力は、限度を越えていると思う。
「それらを乗り越え、今の彼があるのです。どんな困難でも弱音を吐かず、彼女を守っていけるはずです。」
病院へ向かう車の中で、宮城君は泣いていた。
「先生、ありがとうございました。もし、ことわられても僕は大丈夫ですから。」
「近いうちに返事をくれるそうだ。もし結婚が決まったらこの借りは大きいぞ。」
「はい。ありがとうございます。」
「今日は何を言ってもありがとうだな。」
「他に何を言ったらいいのか。先生、今晩は当直ですか。」
「ああっ。明日手術があるから、少し勉強しておこうと思って。」少し希望が見えて来て、うれしそうな彼を病院において来た車に乗せる。
「飛ばすなよ!」
「はい、わかってます。」と言った先から、派手にタイヤをきしらせ、門の外に出て行った。